こんにちわ、HIKARI CLINIC 【GEKU】担当医師の中尾です。 今回は皆さんに「うつ病」の事を知っていただきたくて、筆をとりました。「現代のうつ病」の「概要」と「治療」説明します。
概要
五大疾病
ストレス過多となりやすい現代社会において、うつ病による休職などが大きな社会問題になっていま す。厚生労働省は2011年に、従来の「四大疾病」(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)にうつ病を 加えた「五大疾病」を提唱し、対策に重点的に取り組んでいます。統計データによっての差異はありま すが、日本の社会においては100人に3人~7人程度の人が発症経験があると言われています。うつ 病は「世にもまれな」ものなどではなく、よく見かける病気です。
症状の特徴としては、まず中核症状としての気分の落ち込みがあげられます。憂うつな気分を経験した事が一切ない人はおそらくいないでしょうが、通常の憂うつさとの違いはその強さと持続性にあります。一部の例外はありますが、良く知っている憂うつさの何倍もの落ち込み感が徐々に強まって行き、 少なくとも1ヶ月以上にわたって持続するとなるととてもしんどい事がイメージできると思います。
こころの症状とからだの症状
そうなってくると他の事で気分を紛らわせられないし、「楽しい」と感じる事が出来なくなります。仕事や家事、勉強などしなければいけない事にパワーが出せなくなり、「ちゃんと出来ない自分が悪い」「自分には価値がない」と自分を責めるようなネガティブ思考が支配的になります。中にはイライラしたり、居ても立ってもいられないような焦燥感を味わう人もいます。元気だった頃の自分だったら気にも留めなかったような些細な事を思い悩むようになることもあります。多くの場合は漠然とした対象のは っきりしない不安が多いようです。
また、様々な身体的な症状が出る事も特徴としてあげられます。食事摂取や睡眠がうまくいかなくな る、体がだるく疲れやすい、性欲がわかないといったものから、動悸、めまい、便秘などの自律神経症状、身体各所の痛みと言った訴えも見られる事があります。中には「仮面うつ病」といって、(まるで仮面をかぶった人が肝心な顔が見えないように)一見うつ病とは無縁の元気そうな姿にみえながら、それ以外の症状が前面に出てくるようなものもあります。
診断
診断については、最近は光トポグラフィー検査などの客観的な判定が可能な検査がある事も知られてい ますが、まだまだ施行できる施設が全国でも少なく、症状を精神科医が丹念に聞いて行くことで診断を 行います。
ただ注意が必要なのは、うつ症状を呈する疾患はうつ病だけではない事です。躁うつ病を始 めとして、ほとんどの精神疾患では経過の中でうつ症状が見られる事があるのが知られていますし、あ る種の身体疾患の症状としてみられる場合や、身体治療薬の副作用として見られる事もあります。そう いった所も情報を加味しつつ診断は行なわれます。
うつ病の治療についてです。
うつ病の治療
薬物療法
治療については抗うつ薬を中心とした薬物療法が行われます。SSRI、SNRIといった比較的新しい世代の 抗うつ薬を中心に、症状のあり方や変化に応じて、その他の向精神薬も使用される事があります。
躁うつ病によるうつ状態の場合には、抗うつ薬ではなく、気分安定薬や抗精神病薬と言われるカテゴリーの 薬剤が使用される事が多いです。お薬にはそれぞれに特色があり、同じカテゴリーの中でも効き方に個 性がありますし、患者さん一人一人の症状の出方や体質によっても効果に違いが出る事があります。
副作用
副作用についても薬によって種類は軽いものから重いものまで様々です。SSRIの副作用としては主だっ たものとして頭痛、眠気やふらつき、便秘や下痢、胃の不快感などが知られています。ただ、一般的に 新しい世代の薬ほど副作用全体の出現頻度は低い傾向がありますし、薬をやめた後も残存したり、体に強烈な影響を与えてしまうような強い副作用は最も古い世代の薬に比べるとほぼみられません。
薬の依存症が心配・・・
また精神科の薬剤で一般に昔から良く言われている話で「依存性がある」といったものもあります が、すべての薬に依存性がある訳ではないので、薬の種類をきちんと選択し、適切な容量で適切な期間、決められた通りに服用すれば依存とはいいません。症状の改善とともに不必要になった薬は次第に減量してゆきます。
一部の薬には急速な減薬によって引き起こされる離脱症状が存在しますので、自己判断での服薬の中止は危険で、医師と相談の上減量を行うようにします。そうすれば離脱症状は起こりません。
精神療法、カウンセリングってどういうもの?
うつ病は全般的に薬物療法のみでは治療的に限界がある場合も多く、そういう状態に至った背景を振り返り、その人自身の現実への認識の仕方や行動の癖などを修正したりする必要がありま す。例えば元来の真面目さ故に仕事を他者に任せられず抱え込む事になった結果、疲労が蓄積しうつ病 へ至ってしまうというパターンが良く知られていますが、一口にうつ、といっても他にも様々な認知や 行動の傾向があり得ます。
治療者と話し合いながら自身の傾向を少しずつ変えていく、そういった精神療法的アプローチも後の再発を防ぎうつになりにくい生き方を獲得するためには不可欠です。当院におい てはそのような視点に基づき、外来での医師との診察(精神療法)や臨床心理士との心理療法(カウンセリング)を重要視しています。
うつ病からの社会復帰、リワークについて
うつ病によって休職に至ることは時にありますが、再び復職する時に職場環境にもう一度入って行く事 は苦労が多いものです。当院では現在そういった方を対象にしたリワーク・デイケアの立ち上げを準備中です。
過去のうつ病治療では、休養を中心に休んでいれば元気になると考えられていましたが、それでは社会復帰までのハードルが充分とはいえず、現代のうつ病治療では、症状に改善がみられたあとに、リハビリ的な取り組みが重要視されています。
生活のリズムを整える事、振り返りを行い自身の認知や行動の様式を見直す事、必要となって くる現実的な対処法を身につけて行く事、1人ではなかなか大変なそういった事を、リワークによって見つめなおし、仲間と共に取り組みながら力を取り戻してゆきます。
長くなってしまいましたが、うつ病はきちんと治療する事が可能な疾患です。皆さんや皆さんの大事な 人が、この病気の苦しみから再び立ち上がる事が出来て、さらに新しい自分、うつになりにくい自分を 手に入れる事を願ってやみませんし、我々もサポートしようと考えています。よろしくお願いします。